Desire*desirE #5 預かり生活DAY2

 プロンテラの街に出た私たちは、小物商人のところに向かっていた。
「ぱらりらぱらりらー」
 そんな中、私たちのそばを、見知ったサメ頭のドラムがカートに乗って走っていく。あのドラムの名前はもなんしゃーく。もっとも、偽名だろうが。
 チャリン。
 もなんしゃーくのカートから、なにかが落ちた。私のそばにいた少年マジシャンは、それを拾って彼を呼び止めた。
「ねこさん待って! キーホルダー落としたよ!」
「にゃあ?」
 カートは急ブレーキをかけて止まった。魔法が掛けてある騎乗用手綱を振ってカートをしまうと、もなんしゃーくはトコトコと歩いて少年の前に来る。
「はい、どうぞ」
「マジシャンさん、ありがとうですにゃあ」
 お礼を言われたアルトは、もなんしゃーくの肉球の上に乗ったキーホルダーを羨ましげに見た。
「そのキーホルダー、いいなあ。どこで売ってたの?」
「にゃあ。これは手作り品なんですにゃあ。案内しますにゃあ?」
「うん!」
 私に向ける笑顔と同じ笑顔をこのドラムに向け、アルトは首を傾ぐ。
「こっちですにゃあ」
 もなんしゃーくの案内を受け、アルトは歩き出した。
「ほら、ルアムも!」
 愛しい少年の声を受け、嫉妬でひりついた胸を隠して、私はアルトの後をついていく。
「メカニックのおにいさんのお知り合いでしたかにゃあ」
「ああ」
 彼の問いに私は短く答えた。
 するとこの猫はにゃはははは、と笑い、私に手招きをした。アマツにあるマネキネコのようだ、と思いつつ、私は彼のところに行き、頭の位置までしゃがむ。
「かわいい子ですにゃあ」
「!」
 私は彼を軽く睨みつける。
「あんまりいつもの調子を崩さないようなら、ぼくのかわいさでマジシャンさんをメロメロにしちゃいますにゃあ」
 このクソドラ猫!
 サメ頭をひん剥いてやろうかと思っているところに、アルトがなになに、と不思議そうに私たちを見つめた。
「なんでもないですにゃあ。ところでマジシャンさん、お名前聞かせてほしいですにゃあ」
 答えないで欲しい。
 そんな願いも虚しく、アルトは自分の胸に手を当てて、マントを翻し、少し腰を屈めた。
「アルトだよ。よろしくねー」
「アルトさんですにゃあ。覚えましたにゃあ」
 覚えるな。
 私の名前なんて、いくら言っても覚えなかったくせに。
「アルトさん。ぷろんてらぼうそうぞくに入りませんかにゃあ。ぼく、そこのぞくちょうのもなんしゃーくですにゃあ」
 ナンパを続けるドラムに、私は少し冷たく訊く。
「おい。そのギルド、ドラムだけって言ってなかったか」
 ところが、このオスドラムはめげることなく続ける。
「アルトさんを特別顧問として迎えたいですにゃあ。箔がつくこと間違いなしですにゃあ」
 そんな中、
「んー。でもオレ、ただのマジシャンだし、プロンテラに住んでないからお役に立てないかも。だから、ごめんなさい」
 アルトがぺこり、と頭を下げた。
 もなんしゃーくは一瞬ぽかんとしたが、にゃはははは、と笑ってうんうんと頷いた。
「でもまあ、気が向いたら是非、ですにゃあ。お待ちしてますにゃあ」
 そして、こっちを振り返る。どうやら、案内も終了したらしい。先ほど彼が落としたのと同じタイプのキーホルダーが、所狭しと並んでいる。
「ではぼくはこれで失礼しますにゃあ。ぱーらーらーらーらー」
 彼は再び手綱を振るとカートを召喚し、暴走行為をしつつ人混みに消えていった。
 アルトはそれに手を振って見送ってから、目的の、キーホルダー選びに移る。
「わー。やっぱりかわいー」
 金や銀でルナティックを模ったチャームと、色とりどりのシルクのリボンがついたキーホルダーだ。確かにかわいい。
 だが、もなんしゃーくも持っていたものだ。そのことが、私の心に影を落とす。
「んー。やっぱり、ルナティックはいぶし銀のがいいよねー。リボンの色はどれにしよう……」
 先ほど、もなんしゃーくが落としたのもいぶし銀のやつだった。
「決めた。赤!」
 あのキーホルダーにも、赤いシルクのリボンがついていた。
「すみません、これくださいっ」
「まいど! 2400ゼニーだよ」
 うっ。アルトが自分のお小遣いを見て絶句する。
「カプラ転送費用の、二倍……」
「持ってないのか」
「ギリギリ足りなかった……」
 その言葉に、私は心底ほっとした。これであのドラ猫と同じキーホルダーを持たれずにすむ。
「うう……。絶対これがよかったのに……」
 涙ぐむ少年マジシャンが可哀想になり、私はつい、自分のお金からそれを出した。
「まいど!」
 商人は私にそのキーホルダーを手渡して、お金の整理を始める。私はキーホルダーをアルトに手渡さず、そのままアルトに見せた。
「……なんでこれがいいんだ。もなんしゃーくと一緒だからか?」
「?」
 アルトが不思議そうに私を見、そして一瞬で悟ったのか、むー、と顔をしかめた。
「ルアム。あのねこさんに嫉妬?」
「……そうだ」
 私は白状して、息を吐く。
「私以外にも、あんな笑い方をするとは思わなかった」
 ああ、私はなんて狭量なんだろう。
 我ながら嫌になってくる。
 そんな私を知ってか知らずか、アルトは人差し指でキーホルダーを指差して説明する。
「このキーホルダーがいいのはね、黒いルナティックだからだよ」
「黒いルナティック?」
 あれ、そこまで言っても判らないんだ。
 アルトはそう言って、私に近づき、私の耳を触る。
「オレの大好きな誰かさんは、黒ウサギさんだからね」
 彼は言いながら、私の顔にかかった前髪も撫でた。
 私の髪は青みがかった黒髪で、ウサギのような垂れた耳はさらに一段階黒い色だ。アルトはそれを黒ウサギ、と言っているのだろう。
 それが判った瞬間、火を吹きそうなくらい、顔が熱くなった。
「じゃ、じゃあ赤いリボンを選んだのは……?」
「キミがよく着てるハイネックシャツ、赤いし」
 この子本当に私しか見えてないのか。
 ああもう。完全なる勘違いだ。
 口が緩むのが抑えられない。いまの自分は誰にも見せたくない。絶対にだらしのない顔だ。私は思わず下を向く。
「あのねこさんはぜんっぜん関係ないんだけどなー」
 アルトは面白そうに私の顔を覗き込んだ。満足そうな笑みで目を細めるアルトは、少しだけ大人に見える。
「でも、あのねこさんと一緒なのが嫌だったら、商人さんには申し訳ないけど、そのキーホルダー、キミの手でちょっと手を加えてくれる? オレ、サファイアのチャームつけて欲しいな」
「えっと……誕生石かなにかか?」
 ううん。オレ、自分の誕生日知らないし。
 そう言って、アルトはにこりと笑う。
「ルアムの眼の色だよ。綺麗な青、サファイアみたいだもんね」
 ああもう。完敗だ。
 私はそう思って、天を仰いだ。


「出来たぞ」
 サファイアのチャームを手に入れ、家に帰ったあと、私はすぐにキーホルダーを仕上げてアルトに渡した。
「ん、ありがとー」
 ソファーに座っているアルトは昨日渡した鍵を取り出すと、いそいそとキーホルダーをつける。
 チャリ、と音をさせて、アルトはそれを眺めた。
「オレの宝物だ」
 幸せそうな顔だ。
 飽きることなく鍵を眺めるアルトを抱き寄せ、私はその場に組み伏せた。
 鍵を取り上げて、テーブルに置く。
「……アルト」
 私は顔を見られないように、彼の耳元に顔をもっていく。そして、そこでこう囁いた。
「抱かせてくれ」
「……うん」
 その返事を聞き、私はアルトにくちづけた。舌を入れてきたのはアルトの方だったが、それを吸うと、彼は震えて大人しくなった。私はそのまま、アルトの舌に自分の舌を絡ませる。
「……ん、は……っ」
 出る吐息も、なにもかも、私のものだ。
 貪るようにこの少年の口内を味わう。たまに漏れる甘い息が、耳に心地よい。
 アルトの唇を解放すると、私の唇との間に透明の糸が垂れた。私は自分の唇を乱暴に拭い、アルトのローブに手をかける。
 ローブをそっと脱がすと、白い肌が姿を現した。そう言えば、こんな明るいところでまじまじと見るのは初めてかもしれない。その肢体の美しさに、思わず喉を鳴らす。
「ルアムも……脱いでよ」
 恥ずかしそうにいう少年に従い、私もツナギを脱いだ。少年マジシャンはそれを見て息を吐くと、私の胸板に手を当てる。
「意外と……がっしりしてるなあ……」
 頬を染めたアルトは、少し視線を逸らせて言う。
「キミってもっと中性的かと思ってた」
「私は顔が幼いだけで、ちゃんと男だよ」
 そう言って、細い首筋に歯を立てて甘噛みした。嬉しそうな艶のある声が上がって、私の背中に腕が回る。
 キャンディを食べるときのように、そのまま首筋を舐め上げる。
「ぁ、ふ……」
 かわいい声だ。誰にも聞かせたくないほどに。
 背中に回った腕は、細かく震えている。
「男……かあ」
 アルトはポツリと呟いた。
「オレも男だけど……よかったのかな」
「お前、それミスティルたちに言えるのか? 女同士で結婚なんておかしいと」
 私の言葉に、アルトはふるふると首を振った。
「ママたちはすごく幸せそうで……愛し合ってもいるし……」
「なら、私たちとなにが違う」
 私はアルトを見た。ああ、やはり泣いている。ぽろぽろと落ちる涙を、キスで拭う。
「少なくとも私は、お前のことが好きだし、これで幸せなんだ。お前が嫌ならこの関係を終わらせるが、そうでないのなら、私に付き合ってはくれないか」
「すき……」
 確かめるような言い方に、私は肯定した。
「好きだ。お前が許してくれるなら、愛していると言いたいくらいには」
 途端、アルトの顔が真っ赤に染まった。恥ずかしそうにみじろぎして、私をグーで殴る。
「と、突然言うのっ。反則っ。反則だよおっ」
 私を殴りながら、彼は泣く。
「どうするんだよお。そんなこと聞いたら、もう止められないじゃんっ」
 アルトが私にしがみついた。私の胸で、彼は泣き続ける。
「言ってくれなかったから……それでもいいやって思ってたのに……。言われちゃったら、知っちゃったら、オレもう止まんないよ?」
「構わない」
 体勢を変えて、私は彼を抱きしめた。
 アルトの小さな身体をすっぽりと覆うようにして、彼の背中を撫でる。
「オレ、ふつーに性欲あるよ? ルアムが訪ねてくれたとき顔合わせなかったの、受け入れる準備まだ万全じゃなかったからだよ? 汚いとか、思わない?」
「健気でかわいいじゃないか」
 アルトは続ける。
「嫉妬とかも、人一倍するよ? とっても醜い感情をむき出しにすると思う」
「嫉妬など誰でもするだろう。さっきの私もそうだったろ。気にすることじゃない」
 でも、でも。
 まだなにか言おうとするアルトの唇に、私は人差し指を当てた。
「これ以上の言い訳はいらない。私はお前を選んだ。お前は私を選んでくれた。それでいいだろう?」
 私はそう言って、アルトに深くくちづけた。
 アルトは泣き顔のまま笑って、そっと私をいざなった。そのまま、彼は私を受け入れる。
「ふ、ぁっ」
 繋がると、少年は甘い声を上げる。
 いつもより中が熱い気がして、私は一瞬身じろいだ。
「ん……。動か、ないで……」
 吐息まじりの懇願に、私は少しだけ笑って、彼の髪を撫でる。
「そんなことを言われても……私ももう、余裕がないな」 先ほどから私の身体は快楽を求め、自然に、彼に腰を打ちつけている。止められるものなら止めたいが、どうやら私はあまり我慢が効かないらしい。
「あっ、ぁ……! は、っ……」
 腰を浮かせるアルトを押さえつけて、本能のままに動く。白い肌に貪るように食らいつき、なかなか消えない痕をいくつもつけると、アルトはか細い声を上げて果てた。
「ん、っ。は、ぁっ……。も、ダメぇ……」
 頭が痺れるくらいの甘い声だ。
 そう思いながら、抽送を続けると、アルトの身体が大きく跳ねた。
「あっ、あぁあぁぁぁあっ!」
 喉をそらして悲鳴のような声を上げ、もう一回精を放った少年は、くったりとして粗い呼吸を繰り返す。私の昂まりが打ちつけられるたび、痙攣するかのように身体が震えるが、それでも私を求めて手を伸ばす少年が、たまらなく愛しい。
「……っ、は」
 アルトの手が、私の首筋に触れた。それだけで気持ちがよくて、けれどその感覚に戸惑っていると、アルトは唇を動かして訴える。
『もっと、激しくシて……』。
 誘われるまま、私は彼の最奥を突き上げた。コリコリとした感触のある壁を刺激すると、アルトの身体は再び大きく跳ねる。
「あ、ッ!」
 何度目かの飛沫を散らし、アルトは私にしがみついた。彼の散らした白濁が私の下腹部を濡らしたことに気づいていないのか、それとも、気づかないフリをしているのか。いつもだったら恥ずかしがるだろうに、彼はそれを厭わずに腰を振る。
「ルアム……っ。熱いの、たくさんっ……注いで……っ。欲しい、よお……っ」
 耳元で囁かれる声も、熱い吐息も、放たれた白濁も。
 この、はしたない姿も、甘える仕草も、なにもかも。
 すべて、私のものだ。
 私だけの、
「アルト……」
 少年の最奥で占有の印を注いで、私はこの愛しい存在にくちづけた。
 ただただ、幸福の余韻が過ぎていくのが心地よかった。


「何時間眺めている気だ」
 シャワールームから出た私は、ソファーで鍵を眺めているアルトに向かって話しかけた。
「宝物だもん」
 幸せそうにするアルトは、またバスタオル一枚を肌にかけたままだ。
「せめて服を着ろ。風邪を引くぞ」
「はあい」
 私に言われて、いそいそと服を着る少年は、先ほどまでとは別人のように子どもっぽい。私は拍子抜けして、彼の隣に座った。
「お前は変な子だな」
「?」
「あんなに艶があると思えば、こんなに子どもっぽい。どっちが本当のお前だ?」
 すると、アルトが私に抱きつき、上目遣いで私に問う。
「どっちがいい……?」
 その姿に心臓を鷲掴みにされたような気がして固まると、アルトは顔を崩してえへへへへ、と笑う。
「ルアム、こーゆーの弱いんだね! おもしろーい!」
「こら、大人をからかうな」
「えー? どーしよっかなあ。でも、今のルアムはちょっとかわいかった!」
「ええいもう。かわいいとか言うな恥ずかしい」

 あと一日。
 この子に振り回されるのも悪くない。