Desire*desirE #3 触って。

「確か、ここらへんだったはずだが」
 ミスティルにメールを出し、会う約束をとりつけた私は、そのメールの住所とにらめっこをしながらゲフェンを歩いていた。
「あー……やっぱ迷ってたかー」
 友人の声がして目線を上にやると、そこには銀のローツインをいじりながら、ミスティルが心配そうに立っていた。
「キミからメールくるなんて珍しいよねー。どしたん?」
 並んで歩く友人は、なんの気なしに言ったのだろう。しかし、彼女の息子であるアルトを傷つけたという自覚のある私には、その言葉は鋭く刺さる。
「アルトに……会いたくて……」
 やっとのことでそう言った私に、ミスティルはふーん、と息を吐いた。
「ただ、あの子、最近なにかしてるみたいで、部屋から出てこないよ。ルアムが訪ねてきたと知ってもどうかなー」
 たどりついた部屋の鍵を開けて、ミスティルは私を招き入れた。小さく「お邪魔します」と言い、私はドアをくぐる。
「ただいまー」
 ミスティルの声はよく通る。その声は家全体に響いたはずだが、誰からの返事もなかった。
「うーん、返事すらもないかぁ」
 彼女は髪をいじりながら、ため息をついた。それから、私に椅子に座るよう勧めると、紅茶を淹れはじめる。
 ふんふんと鼻歌を歌いながら家事をしているミスティルは、やはりいま幸せなのだろう。彼女の結婚式には立ち会えなかったことが心残りだ。
「いちごあるけど食べる? 食べないか」
「えっと……」
 彼女は割と先走る傾向にある。私が答えないうちに決めてしまうこともしばしばだ。パートナーは苦労してないだろうか。離婚なんてことにならなければいいが。
「あー、でも、一人で食べるのやだから置いとくわ。一緒につまんでよ」
 これは私をおもんばかって言ったのだろう。言葉とともに、みずみずしいいちごがテーブルに置かれた。
 結婚して彼女は少し変わった。恋とはこういうものなのかもしれない。
「アルトは部屋から出てこないと言ったか」
 私が尋ねると、ミスティルは紅茶を二人分置いて、席についた。
「なんかさー。キミに会いに行くって出て行って帰ってきた日から……だったかなぁ。ずーっと部屋に閉じこもってるんだよね」
 ゆるめのローツインをがさつにいじり、ミスティルが息を吐いた。
 ミスティルをも悩ませているのは私だと思うと、ここから逃げ出したいほどの申し訳なさに駆られる。
 だが、逃げ続けても何も得られるものはない。
 私は意を決して、ミスティルに話しかけた。
「すまない。お前の息子に、少しひどいことを言った」
 その言葉に、渋い顔をして、ミスティルが数度頷く。
「そんなことだろうと思った」
「謝りたいんだ。彼に会わせてほしい」
 私の言葉を聞いて、彼女はため息とともに再び頷いた。
「アルトの部屋の前まで案内するよ。でも、アルトがドアを開けてくれるかは別だからね」
 彼女はそう言って、私についてくるように促した。
 家の一番奥にある部屋が、アルトのものらしい。
 同行したミスティルがドアを叩く。
「アルト」
 ミスティルの声が響く。
 だが、返事はない。
「ほらね、こんな調子」
 ミスティルと代わり、ドアの前に立った私は、少年の名を呼んだ。
「アルト」
「……ルアム……?」
 がたん、と大きな音がして、彼がドアの前に立った気配がした。
「アルト、あの……この前は……」
 謝罪の言葉が喉に詰まる。
 息を整えようといったん言葉を飲みほしたところで、アルトが語りかけてきた。
「なにも、いわないで」
「アルト……」
 もう一度謝罪しようと試みる私に、アルトが優しい声で言う。
「また、会いに行きます」
「怒ってないのか? 私は、あんなひどいことを言ったのに」
 私の言葉に、彼は答えなかった。
 その代わりに、返ってきた言葉は、意外なものだった。
「いまはまだ、会えない。だから、今日は帰って」
 でもね。
 彼が続ける。
「訪ねてきてくれたことは、とてもうれしい。ありがとう」
 そこで、ドアの前から彼の気配が消えた。
 私はミスティルを見ると、ミスティルは少し怒ったように頬を膨らませていた。
「ボクが話しかけても知らんぷりなのに、ルアムだと答えるんだあの子」
 うー……ショックー。母としての威厳がぁ。
 そんなふうにうなだれながら去っていく彼女の背中を追いかけ、私はドアの前から去った。


 ゲフェンから帰宅して数日後。
 今日を休日とした私は、ベッドでまどろんでいた。
「ルアム」
 そんな中、ここにいるはずのない、私を好いてくれる少年が、私の髪をさらさらと撫でる幻を見た。
「ん……」
 心地いい。
 もっと、と幻にねだるように、その腰に腕を回す。
 そこまでして、この幻から体温が伝わってくることに気がついた。
「えっ……?」
 幻は、実体を持っていた。
「おうちに鍵かけてないの、危ないよ?」
 アルトはベッドに腰掛けて、相変わらず私を撫でながら心配そうに言う。
「掛けてなかったか……。うん、それは確かに危ないな。すまない」
「オレみたいなやつが入ってくるよ?」
 それは危なくもなんともないだろう。
 私が変な顔をしたのか、アルトが目を伏せた。
「来るなら来ると、メールをよこしてくれれば……」
「30分前にゲフェンから飛ばしました」
 言われて、メールボックスを確認した。
 本当だ、きている。
「……すまない」
 私が謝罪しつつ身を起こそうとすると、アルトはそれにしがみついてきた。
「あっ、あのねっ。鍵、閉めたっ」
 彼の発言の意図が理解できず、私は寝起きの思考回路のまま、彼の髪を撫でる。
「それはありがとう。危ないからな」
「……」
 薄明りの中で見える彼の頬は、ほんのり染まっているように見えた。
 一瞬、脳が理解することを拒絶したが、その意味をすぐに察した私は、少年の肩を掴む。
「アルトっ。それはダメだっ」
「なんでだよっ!」
 彼の綺麗な紫色の髪が揺れる。
「そーゆー目で、オレのこと見れるんでしょっ? だったら……っ」
 アルトの、少年特有の大きな目から、涙が落ちた。
 彼がいまなにをしでかそうとしているのかより、その涙に動揺して、私は硬直する。
 その隙をついて、彼はマントの留め具を外してローブを脱ぐ。
「……ね、キミの想像と違うかな……?」
 なにも纏っていない少年は続ける。
「……触って」
 私がなにも行動しないのを見て、彼は無理矢理私の手を取り、自分の胸に押し当てた。
「やめよう。いまなら引き返せる」
「なんで……?」
 私の提案に、彼は震えた声で言う。
「うれしかったのに……。ルアムはそーゆー風にオレを見てくれてるって……。そしたら、恋人にはなれなくても、少しくらいチャンスがあるかも……って」
 彼の目から、ぽろぽろと涙が落ちる。彼はそれを乱暴に拭って、悲痛な声を上げた。
「やめさせたいなら、一言言ってよ! 嫌いって、それだけでいいから! そうしたらもう、オレこんなことしないし、二度と会いにも来ないし、キミのこと諦めるから!」
 オレはバカだから。彼はしゃくりあげながら言う。
「嫌いって言われない限り、期待しちゃうし、いつまでもこんなことし続けるよ。ルアムが困ってるの知ってても、でもオレ好きなんだもん」
 そこまで言われて、脳裏にかのアークビショップの言ったことが頭をよぎった。
『それはもう、据え膳食わぬは、ってやつですよ。押し倒しちゃえ!』
 体勢を変えて、アルトを組み敷く。自分がためらわなかったことにも驚いたが、アルトもためらいはしなかった。
 顔を見たら揺らぐような気がして、顔を見ないように彼の首に唇を落とす。
「ぁ……」
 か細い声がかわいくて、そのままキスマークをつけてやる。
 それを確かめるように触って、彼は息を吐いた。
「大好き……ルアム……」


「あのね……」
 アルトの身体のあちこちを舌で撫でると、彼は息を切らしながら話し始めた。
「この前、ママたちと……ポリン島……行って……」
 変なことを話す子だ。
 そう思いながら、色づいた部分を甘噛みする。少年のそこは、色づいているとはいっても本当に色が薄く、この子の身体が本当に見た目通りの年齢で成長が止まっていることを物語っていた。
「んっ……」
 彼の話は続く。
「サンドイッチ……作ってくれたの……」
 そのまま吸い上げると、彼の身体が震えた。少し硬くなったその部分を舌で転がすと、アルトは甘い吐息をもらしてそれを享受した。
 しかし、やはり話は続く。
「ママが作った……くまさんの……焼きごて……で……ちょっと、焼いた……」
 それでね、
 彼の話を聴きながら、アルトの下半身にそっと手を伸ばした。手が触れただけで小さな声を上げるが、話はまだしたいらしい。
「ポリン島の……主にも……会えて……。は、ん……っ」
 そんな話をしながらも、アルトの身体は反応している。嬉しくなった私は、彼の下腹部に滴るしずくを舐めた。
「でもね……ママたち……。んっ……アックストルネードしか、打たない……からっ」
 アルトの状態を確認して、大丈夫そうだと思った私は、腰を静かに沈めた。
「ぅ……」
 意外にもすんなりいってしまって、少し戸惑う私は、しかし彼の中の心地よさに勝てなかった。さらに快楽をむさぼろうと、抽挿を始める。
 それに呼応するように、少年がかぶりを振る。
「あっ……。あ、ぁ……っ」
「話を続けてくれ」
 彼に言うが、当のアルトは口を両手で抑えて言葉にならない声を上げていて、話を続けられそうにない。
 その様子があまりにも愛らしくて、私は最奥を突いた。
「――――――っ!」
 身体が大きく跳ねて、飛沫が散る。
 アルトの顔を覗き込むと、瞳孔が大きく開いて、目には涙が溜まっていた。頬は紅潮し、半開きになった口からは透明の糸が引いている。
「はっ、あっ……」
 私は彼の中を突きながら、その髪を撫でる。
「話は終わりなのか?」
「ぁ、ん……っ。は、ぁっ。ン……っっ」
 私が突くたびに艶のある声を上げるアルトは、それどころではないらしい。自らも腰を振って、私をせがむ。
「好きっ……。だからっ、もっと……。もっと、して……っ」
 こんな子だったのか。
 こんな……
「はしたない子だったんだな、お前は」
 その事実に我慢できなかった私は、髪の間からちらちらと見える耳を食んで、彼の奥に欲望を注いだ。アルトの嬌声とともに、味わったことのない快楽が私に届く。
 最後にもう一度、愛しい少年の首にキスをして、私は再び眠りに落ちた。


「帰らなきゃ」
 ベッドの中で、少年は残念そうに言う。
「泊まっていきたかった、なあ」
 私が泊まれ、と言うのを期待しているのだろう。彼は潤んだ瞳で私を見つめる。
「……ミスティルに、一晩預かるとメールを飛ばそう」
 私が言って、サイドテーブルでメールをしたため始めると、アルトは嬉しそうに笑った。こんな、天使のような無邪気な笑顔をする子なのに。先ほどのことを思い出して、思わず身体が熱くなる。
「ねえ」
 アルトが言う。
「……これだけで、オレ、もういいかも」
 その言葉に、私は彼を見た。
「あ、相手になんか……されないの……判ってる、から。恋人になれないって……知ってるし……」
「なにを言っているんだ、お前は」
 私は息を吐く。
「その気がなかったら、いくらなんでもあんなことはしない」
「!」
 嬉しそうな声を上げて、アルトが身を起こす。
「オレ、期待しちゃうよ? いいの?」
「期待もなにも、お前を恋人にする気なんだが。お前こそいいのか? 私はおじさんだぞ」
 ええー。アルトが不満そうに頬を膨らませた。
「その見た目でおじさんって言う……? オレ、初めて会った時に20代だと思ってたよ」
 確かに、私は若く見られる。
 と言うより、顔つきが幼いのだ。だから、冒険者を始めた頃もかなりナメられたし、ほかの商人たちに融通してもらえるようになるまでだいぶかかった。
 しかし、30代も半ばになった私に20代はない。
 少し落ち込んでいると、それを知ってか知らずか、アルトがえへへ、と笑う。
「それに、若いよね。あっちのほうもすごかったし……」
 お前のその姿でその発言は犯罪だぞ。
 思いながら、ミスティルにメールを飛ばし、私はアルトの隣に行く。
 私を見上げるその少年が、たまらなく愛しい。私は彼の唇をなぞって、口を開けるように仕向けた。
「ん、」

 アルトが吐息をもらした瞬間、それを塞ぎ。
 その愛するべき存在を、そのまま押し倒した。